年収1億円の税負担と実践的な節税対策とは?

年収が1億円を超えると、所得税・住民税・社会保険料を合わせた税負担が5,000万円前後に達することもあります。累進課税制度により、給与収入中心の構成では手取りが大きく圧縮される一方、資産所得を活用することで税率を抑える方法もあります。
この記事では、高所得者に求められる実務的な節税対策として、控除の活用、法人設立、不動産投資、航空機リース、NISA・iDeCoの制度利用などを網羅的に解説します。課税所得をコントロールし、資産を効率的に保全するための参考にしてください。
【この記事のポイント】
・年収1億円の給与所得者の場合、税金・社会保険料の負担は約5,000万円に達する
・節税の本質は、所得の金額ではなく、税率の低い所得を組み合わせる「構成」の最適化にある
・有効な対策として、法人設立、不動産投資、各種控除の活用などが挙げられる
年収1億円でどれくらい税金がかかるのか?
年収が1億円に達すると、税負担は一般的な水準とは大きく異なり、手取り額は半分近くまで減少します。特に所得税と住民税の合計は大きな割合を占め、高収入層ならではの課題と言えます。
ここでは、年収1億円の場合にどのくらい税金がかかるのか、そして話題となる「1億円の壁」とは何かについて解説します。
【この章のポイント】
・ 給与収入1億円の場合、所得税・住民税・社会保険料を合わせた総負担額は約5,080万円となる
・ 年間手取り額は約4,920万円となり、額面の半分以下になる
・ 所得が1億円を超えると税負担率が下がる「1億円の壁」は、所得構成を給与から税率の低い金融所得へシフトさせることで起こる
所得税・住民税の合計は約5,000万円に
給与収入が1億円の場合、所得税は最高税率である45%が適用され、住民税も一律10%が課されます。これに社会保険料が加わることで、総負担額は収入の約半分に達します。
- ・所得税:課税所得が4,000万円を超える部分には45%の税率が適用されます。給与所得控除や基礎控除などを差し引いても、所得税だけで約3,920万円の負担となる計算です。
- ・住民税:課税所得に対して一律10%が課されるため、約960万円の負担となります。
- ・社会保険料:健康保険料や厚生年金保険料には標準報酬月額の上限が設けられています。厚生年金保険料の上限は月額65万円で、これに基づくと年間保険料は約71.4万円(労使折半の自己負担分)です。健康保険料も同様に上限があり、雇用保険料と合わせると、年間の社会保険料負担は合計で200万円前後になります。
これらの負担を合計すると、手取り額は大きく圧縮されます。
概算金額 | 算出根拠 | |
給与収入 | 100,000,000円 | |
所得税 | 約39,200,000円 | 累進課税(最高税率45%) |
住民税 | 約9,600,000円 | 一律10% |
社会保険料 | 約2,000,000円 | 健康保険・厚生年金の上限額適用 |
年間総負担額 | 約50,800,000円 | |
年間手取り額 | 約49,200,000円 | 年収の約49.2% |
※こちらのシミュレーションは給与所得控除、社会保険料控除以外の所得控除は考慮しておりません。
1億円の壁とは?
一方で、所得が1億円を超えたあたりから、所得に占める税負担率が逆に下がっていく「1億円の壁」と呼ばれる現象が存在します。これは、所得の構成が変化することに起因します。給与所得や事業所得は、所得税と住民税を合わせて最大約55%の税率がかかる総合課税の対象です。
しかし、富裕層は所得の源泉を給与だけでなく、株式の配当や譲渡益といった金融所得にシフトさせる傾向があります。これらの金融所得は、税率が一律約20%(所得税15.315%、住民税5%)の分離課税で完結します。このため、1億円の壁は単なる統計上の現象ではなく、高所得者が意識的に所得構造を組み替えた結果として現れます。つまり、課税負担を左右するのは金額の大きさではなく、所得の構成そのものです。節税対策の本質は、所得構成をどう最適化するかにあります。
年収1億円の節税対策1:控除と分散
高度な戦略を検討する前に、まずは確実に取り組める基本的な節税策を押さえることが重要です。
【この章のポイント】
・ 医療費控除や生命保険料控除など、適用可能な控除はすべて活用することが基本
・ 特にふるさと納税は節税効果が絶大で、年収1億円の場合、寄附上限額は370万円を超えるケースもある
・ 年収1億円の場合はワンストップ特例制度の対象外のため、確定申告が必須となる
各種控除をフル活用する
医療費控除、生命保険料控除、地震保険料控除など、適用できる控除はすべて活用しましょう。一つ一つの金額は小さくとも、積み重ねることで課税所得を圧縮できます。ただし、年収が高いと配偶者控除などが適用対象外となるケースもあるため、利用可能な制度を正確に把握し、確定申告で確実に手続きを行うことが不可欠です。
ふるさと納税で節税しながら地域貢献
自己負担2,000円で所得税・住民税の控除が受けられるふるさと納税は、高所得者にとって最も効果的な控除の一つです。年収1億円の場合、寄附の上限額は370万円を超えるケースもあり、その節税効果は絶大です。
この制度は、本来納税するはずだった税金を、実質的に返礼品という「モノ」や「サービス」として受け取れます。高級食材や旅行券など、返礼品を選びながら税負担を軽減できる非常に合理的な選択肢です。ただし、年収1億円の場合、ワンストップ特例制度の対象外となるため、必ず確定申告が必要になります。
なお、ふるさと納税の返礼品は一時所得に該当します。他の一時所得(生命保険の一時金など)との年間合計額から50万円の特別控除を引いた金額の、さらに半額が課税対象となりますので、この一時所得を含めて確定申告が必要になることがあります。
年収1億円の節税対策2:資産管理会社の設立
より抜本的な節税と資産の保全を目指すなら、資産管理会社の設立も有力な選択肢となります。
【この章のポイント】
・ 家族を役員にして役員報酬を支払うことで所得を分散し、全体の税率を下げられる
・ 個人の最高税率約55%に対し、法人なら実効税率約34%という税率差を活かせる
・ 経費として認められる範囲が個人より広く、役員社宅や退職金なども経費計上できる
・ 設立・維持にはコストがかかる点も考慮が必要
所得分散で税率を抑える
個人で1億円の所得を得ると高い税率が適用されますが、法人を設立し、家族を役員として業務に従事してもらい、それぞれに役員報酬を支払うことで所得を分散できます。例えば、所得を4人(本人4,000万円、家族3人に各2,000万円)に分ければ、それぞれに適用される所得税率が下がり、家族全体での納税額を大幅に圧縮することが可能です。
法人税と個人所得税のバランスを活かす
個人の所得税・住民税の最高税率が約55%であるのに対し、資本金1億円以下の中小法人の場合、法人税率は所得800万円以下の部分は15%、所得800万円超の部分で23.2%ですが、地方税を合わせた実効税率は、所得800万円以下の部分は約25%、800万円超の部分でも約34%となります。この税率差を利用し、利益をすぐに個人に移さず法人内に留保(内部留保)することで、低い税率で資産を蓄積できます。そして、必要なタイミングで役員報酬や退職金として受け取ることで、納税のタイミングをコントロールすることが可能です。
さらに、法人は経費として認められる範囲が個人より広く、役員社宅の家賃や出張手当、退職金の準備なども経費計上できるため、多角的な節税が可能になります。
資産管理会社の設立は、単なる節税手法にとどまりません。資産を法人名義で保有することで、個人の資産と明確に分離され、将来の相続対策が格段に行いやすくなります。株式の贈与という形でスムーズな資産承継が可能になるなど、長期的な資産防衛の器として機能するのです。ただし、設立・維持にはコスト(設立費用で約25万円~、赤字でも発生する法人住民税約7万円~、税理士報酬など)がかかる点も考慮が必要です。
年収1億円の節税対策3:不動産投資
高所得者の節税策として、不動産投資は特に優れた手法の一つです。
【この章のポイント】
・減価償却費という「会計上の経費」を利用して、課税所得を大幅に圧縮できる
・ 特に築古の木造物件は、建物価格を4年という短期間で償却できるため効果が高い
・ 不動産所得の赤字は給与所得と損益通算でき、所得税・住民税の還付が受けられる
・ 1,000万円の所得圧縮で、最大約550万円の税金が減額される効果が期待できる
減価償却と損益通算の仕組みを賢く使う
減価償却とは、不動産の建物部分の取得費用を、法定耐用年数に応じて分割し、毎年経費として計上する会計処理のことです。この仕組みを最大限に活用できるのが、築古の木造物件です。木造アパートの法定耐用年数は22年ですが、築年数が22年を超えた物件を取得した場合、その建物価格をわずか4年(22年×20%=4.4年、端数切捨てで4年)という短期間で償却できます。
例えば、建物価格4,000万円の築古木造物件を購入すれば、毎年1,000万円もの減価償却費という「会計上の経費」を計上できるのです。これは実際に現金支出を伴わない経費であるため、キャッシュフローを維持したまま課税所得を大幅に圧縮できる点が魅力です。
損益通算で給与所得と相殺
不動産投資で生じた赤字(この場合は減価償却による会計上の赤字)は、給与所得などの他の所得と合算(損益通算)できます。例えば、減価償却などによって不動産所得で1,000万円の赤字が出たとします。この赤字を給与所得から差し引くことで、課税対象となる所得を大幅に圧縮できるのです。年収1億円の方であれば、所得税・住民税合わせて最大約55%の税率が適用されるため、1,000万円の所得圧縮によって約550万円もの税金が減額・還付される効果が期待できます 。
この戦略の成否は、単なる税務上の計算だけでなく、投資対象となる不動産そのものの価値に大きく依存します。税制上のメリットを追求するあまり、入居者が見込めない質の低い物件に投資しては本末転倒です。その点、安定した賃貸需要が見込めるエリアで、土地と建物の価格バランスが良く、減価償却のメリットを最大化できる物件を選定することが、この戦略を成功に導く鍵となります。
年収1億円の節税対策4:航空機リースやオペリース
手元に数千万円単位の潤沢なキャッシュがあり、短期集中での所得圧縮を狙う場合には、航空機などを対象としたオペレーティングリースへの投資も選択肢となります。
【この章のポイント】
・出資額の70%~80%を初年度に経費計上でき、短期集中で所得を圧縮できる
・ これは税の「繰り延べ」であり、リース期間満了時に利益が一括計上されるため出口戦略が必須
・ 元本保証がなく、為替変動など多くのリスクを伴う上級者向けの戦略である
・ 個人(雑所得)では損益通算ができないため、法人でなければ節税効果は期待できない
初年度の減価償却が高水準
このスキームは、出資額の70%~80%を初年度に経費(匿名組合の損失)として計上できる点が特徴です。例えば、3,000万円を出資した場合、初年度に2,400万円の損失を計上し、本業の利益と相殺することで課税所得を劇的に圧縮できます。
しかし、これはあくまで課税の繰り延べに過ぎません。リース期間が満了し、航空機が売却されると、出資金を上回る分配金が利益として一括で計上されるため、そのタイミングで多額の納税が発生します。したがって、役員退職金の支払いなど、将来の大きな支出が見込まれる年に利益計上のタイミングを合わせる出口戦略が不可欠です。
また、元本保証はなく、リース先の航空会社の倒産リスク、為替変動リスク、中途解約が原則不可能であるなど、多くのリスクを伴います。利用は資産管理会社を通じて行うのが一般的であり、専門家と連携した上で慎重に判断すべき上級者向けの戦略です。
なお、個人での航空機リースやオペリースは、損益が「雑所得」扱いとなり、給与所得や事業所得との損益通算ができません。そのため、法人と異なりリース事業の損失を利用して全体の課税所得を圧縮する、という所得税の節税効果は期待できない点に最も注意が必要です。
年収1億円の節税対策5:NISA・iDeCoで運用益を非課税に
これまで紹介してきた所得圧縮戦略とは別に、資産運用から得られる利益(キャピタルゲインや配当)を非課税にする制度の活用も、長期的な資産形成の手段です。
【この章のポイント】
・ iDeCoは、掛け金が全額所得控除の対象となり、確実に税負担を軽減できる
・ 新NISAは、年間最大360万円、生涯1,800万円までの投資で得た利益が非課税になる
・ これらは所得圧縮(守り)とは別に、非課税で資産を増やす「攻め」の運用と位置づけられる
iDeCoは掛け金が全額控除対象
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後資金形成を目的とした私的年金制度です。最大のメリットは、掛け金が全額所得控除の対象となる点です。会社員の場合、上限は勤務先の企業年金制度の状況によって異なりますが、例えば企業型年金のない方は月額2.3万円(年間27.6万円)となります。年収1億円の方であれば、所得税・住民税率55%が適用されるため、年間で約15万円(27.6万円×55%)の節税効果が確定的に得られます。原則60歳まで引き出せないという制約はありますが、確実に税負担を軽減できる制度として有力な選択肢となります。
新NISAの非課税枠を最大限に活用
2024年から始まった新NISAは、年間最大360万円、生涯で1,800万円までの投資から得られる運用益がすべて非課税になる画期的な制度です。iDeCoと異なり、掛け金の所得控除はありませんが、いつでも引き出しが可能です。さらに非課税枠の再利用もできるなど、自由度の高さが魅力です。
年収1億円の方にとって、iDeCoやNISAによる直接的な節税額は、全体の税負担から見れば限定的かもしれません。しかし、これらの制度は税制優遇を受けながら資産を複利で成長させるための「土台」です。課税所得を圧縮する「守り」の戦略と、非課税で資産を増やす「攻め」の運用を組み合わせることが、賢明な資産管理の要諦と言えるでしょう。
節税から更なる資産拡大を行うなら、不動産投資をご提案します
【この章のポイント】
・ 年収1億円の節税策は多岐にわたるが、それぞれに特徴やリスクがある
・ その中でも不動産投資は、継続的な節税効果と、インフレに強い実物資産の構築を両立できるユニークな手法である
法人設立や控除の活用など、年収1億円の税負担を軽減するための選択肢は多岐にわたります。その中でも不動産投資は、継続的な節税効果インフレに強い実物資産の構築を両立できるユニークな手法です。
様々な節税策を検討しているがどの方法を選ぶべきか迷っている方は、ぜひ一度、不動産投資のプロである湘南ユーミーまちづくりコンソーシアムにご相談ください。「ご自身の所得背景に最適な物件ポートフォリオは?」「減価償却とキャッシュフローのバランスをどう取るべきか?」「法人と個人のどちらで所有するのが有利か?」といった疑問に対し、豊富な経験とデータに基づいたプランをご提案します。まずはお気軽にお問い合わせください。