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不動産の相続に「法人化」という選択肢を──節税と資産移転を両立させる方法とは?

不動産を所有している方にとって、相続は避けて通れないテーマです。特に相続税の負担をどう軽減するかは、多くの資産家とって重要な課題となっています。そこで注目されているのが「法人化」です。不動産を法人名義にすることで、相続税の課税対象から外れ、さらに相続人への資産移転もスムーズに進めやすくなります。

この記事では、法人化による相続税対策の仕組みから具体的な活用方法、導入にあたっての注意点までを初めての方にもわかりやすく解説していきます。節税と資産承継を同時に叶える手段として、ぜひ参考にしてください。

法人化で相続税が軽くなる理由

法人化が相続税対策として注目される背景には、明確な理由があります。特に重要なのは、「資産の所有形態が変わること」と「評価のルールが個人とは異なること」です。これらがどのように相続税の負担軽減につながるのか、順を追って見ていきましょう。

資産を法人に移すことで相続税の対象外に

不動産を法人名義に変更すると、当該不動産は個人の相続財産から切り離され、法人の資産として扱われます。その結果、相続税の直接的な課税対象から除外されることになります。これにより、相続発生時の課税対象財産が減少し、相続税額を大幅に軽減できる可能性があります。

ただし、この資産移転は決して無償では行えません。個人から法人へ不動産を売却する場合、購入時からの値上がり益(譲渡所得)に対して個人に「譲渡所得税・住民税」が課されます。同時に、法人側は不動産を取得したことに対して「不動産取得税」と「登録免許税」を納付する必要があります。

この初期コストの試算は、法人化戦略の最初の関門です。特に、長年所有して含み益が膨らんでいる不動産の場合、譲渡所得税が高額になり、将来の相続税節税効果を上回ってしまうこともあり得ます。法人化を検討する際は、まず専門家と共にこの移転コストを正確にシミュレーションし、採算性を慎重に検証することが不可欠です。

相続財産が「株式」になることで評価額が抑えられる

法人に不動産を移すと、相続時に引き継がれるのはその法人の「株式」になります。非上場企業の株式は評価方法によっては、不動産の時価よりも低く見積もられることがあり、相続税の圧縮につながります。

しかし、その評価ルールは複雑で、安易な期待は禁物です。非上場株式の評価は、会社の規模(大会社・中会社・小会社)に応じて、国税庁が定める原則的な評価方法が定められています。

会社規模 原則的な評価方法 納税者の選択により

適用可能な評価方法

大会社 類似業種比準価額方式 純資産価額方式
中会社 類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用 純資産価額方式
小会社 純資産価額方式 類似業種比準価額方式

類似業種比準価額方式は、事業内容が類似する上場企業の株価を基に、配当・利益・純資産を比較して評価する方法で、一般に株価を抑制しやすい傾向があります。

一方、純資産価額方式は、法人の資産を相続税評価額で評価し直した純資産額を基にするため、不動産の含み益が株価に反映されやすく、評価額が高くなる傾向があります。

純資産価額方式が強制される、特定の評価会

さらに注意すべきは、会社の資産構成によっては、規模にかかわらず原則として純資産価額方式で評価しなければならない「特定の評価会社」という例外規定の存在です。これに該当すると、法人化による株価引き下げ効果が期待できなくなるため、設立前に必ず確認が必要です。

・開業後3年未満の会社等
設立後間もない会社は事業実態が乏しいため、純資産価額方式で評価されます。

・土地保有特定会社
 総資産価額(相続税評価額ベース)に占める土地等の価額の割合が、大会社で70%以上、中会社で90%以上の会社です。不動産賃貸業を目的とする法人は該当しやすく、地価の上昇によって意図せず該当するリスクもあります。

・株式等保有特定会社
 総資産価額(相続税評価額ベース)に占める株式等の価額の割合が50%以上の会社です。資産管理会社が他の法人の株式を多く保有する場合などに該当します。
これらの規定は、法人が単なる資産保有の「箱」として利用され、不当な租税回避が行われることを防ぐために設けられています。法人化を計画する際は、設立する法人がこれらの「特定の評価会社」に該当しないか、将来的に該当するリスクはないかを慎重に検討する必要があります。

 

相続人へ財産を移す手段としても有効


法人化のメリットは相続税の軽減だけにとどまりません。相続人への資産移転という観点でも、法人を活用することで柔軟かつ計画的な対応が可能になります。

役員報酬で贈与税を回避しながら資産移転

将来の相続人を法人の役員に登用し、役員報酬を支払うことで、贈与税をかけずに資産を移転できます。給与として扱われるため所得税・住民税の対象となりますが、贈与税より税負担を抑えられる場合が多く、法人側も経費として処理できるため法人税の節税にもつながります。

しかしこの手法には、不相当に高額な役員報酬の否認という重大な税務リスクが伴います。税務当局に役員報酬が不相当に高額と判断された場合、その高額な部分は経費(損金)として認められず、追徴課税が発生します。不相当に高額かどうかの判断基準は、主に以下の点です。

  1. 役員の職務内容: 報酬に見合う実質的な業務を行っているか。
  2. 法人の収益状況: 法人の利益水準から見て妥当か。
  3. 他の役員・従業員への給与支給状況: 法人内で突出していないか。
  4. 同業・同規模法人の役員報酬水準: 客観的な比較で高すぎないか。

職務実態のない親族に名目だけで高額な報酬を支払うことは極めてリスクが高く、客観的な証拠をもって妥当性を説明できる金額に設定するというリスク管理の視点が不可欠です。

法人株式の贈与で財産の分散がしやすくなる

法人の株式は分割しやすく、少額単位での贈与にも適しています。「暦年贈与」の制度を活用し、受贈者一人あたり年間110万円の非課税枠内で少しずつ株式を相続人に移転していくことが可能です。

ただし、2024年1月1日からの税制改正により、この戦略には大きな変更がありました。贈与者が亡くなった際、相続財産に加算される生前贈与の期間が、従来の死亡前3年から死亡前7年に延長されたのです。

この改正により、駆け込みでの贈与による節税効果は薄れ、より長期的で計画的な贈与が不可欠となりました。ただし、延長された4年間(死亡前3年超7年以内)の贈与については、合計100万円まで加算対象から控除できる経過措置が設けられています。

この7年ルールは2024年1月1日以降の贈与から適用され、段階的に期間が延び、完全に7年となるのは2031年1月1日以降の相続からです。

一方で、この生前贈与加算のルールは、原則として相続人に対する贈与に適用されます。したがって、相続人ではない孫への贈与(子が存命の場合)は、この7年ルールの対象外となり、その重要性が相対的に高まったと言えるでしょう。

節税だけじゃない!法人化の多面的なメリット

法人化は所得税対策や事業運営の面でも多くのメリットをもたらします。

比較項目 個人事業主(青色申告) 法人(中小企業)
所得への税率 所得税・住民税合わせて最高約55%の累進課税 法人税等は実効税率で約25%~34%程度(所得800万円以下は軽減税率あり)
家族への給与 専従者給与として経費計上可能(要件あり) 役員報酬として経費計上可能(適正額の範囲内)
給与所得控除 なし あり
退職金 原則なし(小規模企業共済等で準備) 役員退職金として準備可能。税制上有利な退職所得控除あり
欠損金の繰越期間 翌年以降3年間 翌事業年度以降10年間
社会保険 国民健康保険・国民年金 健康保険・厚生年金(強制加入)

特に、所得税と法人税の税率差は、不動産所得が高額な個人にとって大きな魅力です。また、赤字(欠損金)を繰り越せる期間が個人事業主の3年間に対して法人は10年間と長いため、長期的な視点で安定した節税効果が期待できます。さらに、役員報酬や退職金を通じて、計画的に親族へ所得を移転し、納税資金を準備できる点も実務上の大きな利点です。

 

法人化にあたっての注意点


法人化には多くのメリットがある一方で、いったん進めると簡単には元に戻せない、長期的な決断となる覚悟が必要です。安易な判断は避けなければなりません。

・赤字でも発生する固定費
 法人住民税の「均等割」(最低でも年7万円程度)は、事業が赤字でも必ず発生します。

・社会保険の加入義務:
役員が一人でもいれば社会保険への加入が義務付けられ、保険料の約半分を法人が負担します。これは毎月の固定費となり、資金計画に織り込む必要があります。

・設立・維持・廃業のコストと手間: 設立時には登記費用などがかかり、税務申告も複雑になるため税理士への顧問料も発生します。将来、法人を解散・清算する際にも、相応のコストと手間がかかります。

これらの継続的なコストにより、事業運営の損益分岐点は個人事業主時代よりも確実に上昇します。これらの不可避なコストを上回るメリットが明確に見込める場合にのみ、法人化を慎重に検討すべきです。

法人化を成功させるためのコツ

法人化の効果を最大限に引き出すには、設立時の設計が極めて重要です。特に、以下のポイントは将来の成否を大きく左右します。

資本金設定と消費税の判断【インボイス制度対応】

かつては、資本金を1,000万円未満に設定し、設立から最大2年間の消費税免税メリットを享受するのが定石でした。しかし、2023年10月に開始されたインボイス制度により、この考え方は根本から見直す必要があります。

インボイス制度下では、買手側(テナント)が支払った消費税分の控除(仕入税額控除)を受けるには、売手側(家主である法人)が発行した適格請求書(インボイス)が必要です。そして、このインボイスを発行できるのは消費税の課税事業者だけです。

もし設立した法人が免税事業者のままでいると、インボイスを交付できません。その結果、テナントが法人などの課税事業者である場合、そのテナントは家賃にかかる消費税分の仕入税額控除ができなくなり、実質的なコストが増加します。これにより、テナントから消費税分の値下げを要求されたり、最悪の場合、インボイスを発行できる他の物件へ移転されたりするリスクが生じるのです。

したがって、法人設立時の判断軸は「テナントが事業者か、一般消費者か」になります。事業者テナントが多い場合は、設立当初から課税事業者となりインボイスを発行する戦略が不可欠です。その際、期間限定の負担軽減措置「2割特例」を活用すれば、納税額を売上税額の2割に抑えることができ、税負担を大幅に軽減できる場合もあります。

推定相続人を株主・役員にする

相続予定の家族を法人の株主や役員に加えておくことで、財産の移転と節税を同時に実現できます。役員として実際に法人の経営に関与してもらうことで、その対価として支払われる役員報酬の正当性が税務署に対しても認められやすくなります。これにより、前述の通り、贈与税を課されることなく実質的な資産移転を進めることができます。

また、株式を少しずつ贈与していくことで、将来の相続財産を計画的に圧縮することも可能です。さらに、早期から事業経営に関与することは、将来の事業承継を見据えた後継者の育成という観点からも有益と言えるでしょう。

土地は個人所有のままにするか?―地代設定の重要性―

建物だけを法人所有とし、土地は個人所有のままにする方法は有効な選択肢の一つです。この際、税務上の取り扱いは、個人と法人の間で授受される地代の額によって根本的に異なります。

・地代が低い場合(使用貸借)
地代が無償、または固定資産税・都市計画税の年額程度といった著しく低い金額の場合、税務上は「使用貸借(タダ貸し)」と判断されます。この場合、土地の相続税評価額は、何の減額もない自用地評価(評価額100%)となり、相続税評価額を引き下げる効果は得られません。

・適正な地代を支払う場合(賃貸借)

土地の評価減を受けるためには、契約が「賃貸借」と認められる必要があります。そのためには、法人から所有者である個人へ通常の地代を支払わなければなりません。実務上は、少なくとも固定資産税・都市計画税の年額の2~3倍以上の地代を収受することが一つの目安とされています。
この「通常の地代」を授受し、かつ「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出した場合、その土地の相続税評価額は「貸宅地」として評価され、一般的に自用地評価額の80%(つまり20%減額)となります。

ただし、ここで注意が必要なのは、こうした評価減によって将来の相続税を抑えられる一方で、現在は地代収入が発生するため、所得税や住民税の負担が増えるという点です。

つまり、「将来の節税」と「現在の税負担増」の両方を見据えたうえで、どちらが自分にとって有利かを検討する必要があります。資産状況や所得によって有利・不利は変わってきますので、専門家とシミュレーションを行い、慎重に判断することが重要です。

 

専門家の力を借りて正しい設計を

不動産の法人化には多くのメリットが期待できる一方で、その制度は非常に複雑であり、税法や会社法など多岐にわたる専門知識が求められます。また、税制は毎年のように改正が行われるため、常に最新の情報を把握し、適切な対応を行う必要があります。

したがって、不動産の法人化を検討する際には、税理士や司法書士といった相続や法人税務に精通した専門家のサポートを受けることが不可欠です。専門家は、現状分析から法人設立、運営、そして将来の相続発生時までを見据えた総合的なプランニングを行い、潜在的なリスクを未然に防ぐための助言を提供してくれます。事前に綿密なシミュレーションとプランニングを行い、専門家と共に慎重に検討を進めることが、法人化を円滑に進める上で重要です。

不動産の相続と節税対策をお考えなら、湘南ユーミー まちづくりコンソーシアムにご相談ください

不動産を法人化することで、相続税の圧縮や資産のスムーズな移転が可能になる一方、設立コストや社会保険、税務リスクなど考慮すべき点も多くあります。特に、評価方法や贈与のタイミング、役員報酬の設計などは専門的な知識が必要となる場面が多く、「自分の場合、本当に法人化が有効なのか判断できない…」と悩まれる方も少なくありません。

湘南ユーミー まちづくりコンソーシアムでは、相続・節税・不動産活用に精通した専門スタッフが、ご家庭ごとの資産状況や将来設計に応じて最適なプランをご提案いたします。「法人化と個人所有、どちらが有利?」「相続人にどう分散していくべき?」「不動産管理も含めて一括で相談したい」など、少しでも不安やご質問があれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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